受験生の8割が「チャート神話」に騙される【数学】
チャート式が名著であることは否定しない
――「数学はチャート式だけやっておけばいい」
大学受験、特に難関大合格者に多い物言いです。
同様の言説はほか科目でも言われがちだけど、ことさらに『チャート式神話』は多く聞かれるし、根強い。
チャート式だけやって難関大の合格を勝ち取れるか?と聞かれれば答えはYes。
だけど、「チャート式だけやって合格した」はあくまで成功した者だけの言葉が広まったものであることを、私たちは知っておく必要があります。
実際には、「チャート式だけやって合格した」人の裏には、「チャート式をやったが合格しなかった」という数多の屍体が転がっているわけです。
こういう風に成功者だけの言説があたかも普遍の事実かのように語られる現象は「生存者バイアス」と呼ばれてます。
[目次]
「完成したら」がチャート式の罠
チャート式の魅力は、やはりその網羅性の高さでしょう。
特に青チャートは、進学校ならだいたいども採用してんじゃないかレベルで使用者が多く、必然難関大進学者にも愛用者が多いです。
実際、やり切った前提でのチャート式の力はすごい。
基本的に受験参考書ってのは、やった冊数が少ないほど成功率が上がるので、これ1冊で基本的にはOKという力があるのは大きな魅力でしょう。
余談:「やった」「終わった」の基準が人によって違いすぎる
そろそろツッコミが入りそうなので先に書いておくけど、「チャート式だけじゃダメだ」派の人もけっこういますよね。
この辺は問題集1冊1冊、あるいは問題1つ1つに対するやりこみのレベルの問題かなと私は思ってます。
私自身は青チャートをやったうえでチャートに書いてないから解けないと思う人はテキストじゃなくて読み込みが足りてないんだと思っていますが、
まぁわりと軽めに参考書を回して、次のをやっちゃう派閥の人もいますよね。
私はそれじゃダメだと思いますが、それで成果が出る人もいるので、それも一つの正義なんでしょう。否定はしません。
このへんも生存性バイアス
とにかく、「本当にチャート式1冊で大丈夫なのか」系の議論については今回はしません。
完成した時点を基準に教材を選ぶな
「チャート式は完成したら難関大でも戦える」
……そうだね?
それで?
受験ってのはどれもそうなんですけど、そしてそれゆえに詐欺なんですけど、
得がたい目標に対する自己実現の側面を持つんですよね。
志望校なんかがその最たる例で、
「私は●●大学(高校)が第一志望です!」
と宣言するだけで、受験生は一定の人権を確保できることになっています。
これはもう大学や予備校が『大学』を過度にブランド化した弊害で、実際のところこんなことが成立するのは受験業界だけですよね。
なので大学受験って基本的には未来志向です。
未来を基準に今を決めることが許される。
私はこの志向が大嫌いです。
予備校にいると、よく生徒から「これが終わったら何をすればいいですか」とか「ぼくの志望校に行くにはどこまでやらないとだめですか」とか聞かれるんだけど、
いや、いまやってることが終わってから聞け。
っていう話ですよ。
大学や予備校が過度なブランディングをしてるせいで、何も知らない学生たちは「わたしのかんがえたさいきょうのしぼうこう」に通うキラキラした自分を思い描くわけです。
でも結局、受かるか受かんないかって突き詰めたら正解が書けるか書けないかです。
正解が書けるか書けないかは、正解を書けるようになるまで何をどこまでやったかによって決まります。
何をやったか によってです。
何をやるか じゃないです。
だから、「これをやったら受かる」と「お前がこれをやって受かる」の間には、何の相関性もないんです。
例えどんな目標を立てて、例えば「早稲田に受かった子は全員この参考書をやってた」的なのが仮にあったとして、
(いや、あるんですけど。駿台過去問シリーズとか)
じゃあお前がそれをやったとして、お前が受かるか?は全然別の話ですよね。
(これが生存者バイアスの裏側ってやつです)
じゃあお前が受かるかどうかってのがどうやって決まるかというと、
お前がどんな姿勢でいま勉強に向き合っているか
でしか決まりません。
要するに、ゴール地点をちゃんと見据えて、そこから今の行動を逆算して最適化してるかですね。
「今どんな勉強をしたら結果が最大化するか」
を考えるにおいて、「これが終わったら何をやるか」ってのは一切不要な思考なわけです。
そういう意味で、「次何やったらいい?」はただの現実逃避でしかないです。
「さいきょうのしぼうこうを目指してる俺、カッケー」ってやつですね。
その典型が、「受かった人みんながやってるチャート式」です。
チャート式を全否定する筆者のマジでオススメの数学参考書3選
いかにもって感じですが……
チャートを否定する以上、私のおすすめも挙げておきます。
ちなみにこのブログは、親に騙されて大学に3つ通った末に予備校講師になってあまりの詐欺っぷりに嫌になってやめた筆者が、受験の表も裏も混ぜこぜにしてただ1つの正解=ド正論を吐き出す場となっています。
なのでちょくちょく紹介する予備校とか参考書はマジでいいと思ってるやつ以外挙げません。
①チャート式 [黄]
「ここまで話して結局チャート式かい!!!」
って話なんですが、
黄チャートは本当にいいです。ただし黄に限るけど。
青チャートは進学校で配られる「受験まで使えるバイブル」なんですが、なにせ1問1問が重い。
かくいう私も夏休みとかGWの課題で出されてたんですが、これが重いのなんのって、マジで……
(ちゃんと全部やったとは言っていない)
対して黄チャートは、問題が比較的軽いんですよね。
(白チャが重いと後述してますが、もちろん絶対的な分量で言うと白チャより黄チャの方が重いです。あくまで難易度×分量のバランスですね)
例題とかは教科書に載ってるレベルから始まってるし、チャートは赤→青→黄→白と降りていくごとに解説の手厚さが増す傾向がある。
さすがに白チャートまで行っちゃうと教科書ガイド的な雰囲気になっちゃう&その割に問題数が多くて取り回しが悪いので、それくらいなら志田晶先生とかの数学入門書を使った方がいいのかなぁというかんじ。
黄チャートはチャート式の中でも「難易度・解説・分量」のバランスが一番いいと思います。
授業で聞いたことから怪しいレベルの子から始められて、きちんとエッセンスを取り切ればそれなりに高いところまで対応できるので、これ1冊+過去問とかでもある程度対応はききます。
少なくとも地方国公立6割くらいまではやりこみでいけるので、基本的な要素はここで鍛えるといいと思います。
ただし、これは半年以上はチャートで潰せるある程度時間がある人向けです。
よくチャート式を「1冊1か月で」とかいってやろうとしてる人がいますが、それは……
物理的には可能です。
ここまで読んだ人にはこれで伝わると思う。
②大学への数学 一対一対応の演習シリーズ
買 え
大数はいいぞ
「大数」の愛称で親しまれている「大学への数学」シリーズ。
参考書選びの一番のポイントは……もちろん「薄さ」!!
参考書は薄いのが正義!!
学習は反復が大原則だからですね。
特に大学への数学がいいのは、解答のブラッシュアップぶり。
よくある参考書類とは書き口や必要条件の詰め方の記載がちょくちょく異なるので、論述力を鍛え、数学的思考を鍛えるのに非常によいテキストだと思います。
そういう意味で薄いけどスルメのような一冊(I・A・II・B・微積・複素数で6冊だけど)。
テキスト掲載の頻出問題に対して、大数的な導出・論述に対してどういくのか、自分なりの解答の解釈が完成するまで、何周でも何十周でもやっていていいテキストです。
このテキストで晴れて大数派になったアナタは、月刊誌「大学への数学」も購入してキモい数学オタクになりましょう。
個人的には数学参考書で圧倒的No.1がコイツなんですが、2番目に記載したのは万人受けしない、というか「大数的な数学的理論のブラッシュアップ」が必要なレベルに到達してからじゃないと、カッコつけた解答を書くだけの数学ができないやつが出来上がっちゃうからです。
そういう意味で、こいつの一歩手前の「プレ一対一対応の演習」シリーズの方が万人向けかもしれません。
③入門問題精講シリーズ
ここまで2冊、時間がある人向けと基礎ができてる人向けのを紹介しちゃったので、時間がないけどとにかくなんとかしたい人用。
比較的最近出たピンク色の「精講」シリーズです。
ピンクがかわいい。
私は解説がペラいテキストが嫌いなので「基礎問題精講」「標準問題精講」は全部嫌いなのですが、入門だけは大好きです。
今回紹介する中で入門精講だけはほかの科目もオススメです。
特に英語。英文法と英文は特に質が高くていいです。(貼っとこw)
入門精講シリーズは完全な入門書で、掲載の問題は演習問題が記述模試の(2)レベルくらいなので実践的には全く役に立たないんですが(笑)
めちゃくちゃ薄い。内容も薄い。
なので、
短期間でとりあえず科目の概要を知りたい
という需要にはめちゃくちゃよく答えてくれます。
マジで数学が初見に近い、授業もほぼ寝てた、
みたいな人は入門精講から始めると「とりあえずできた」感を実感できます。
こいつはチャート式とは逆で1冊1週間くらいで集中的にやって、次の2週間で3冊全部5周くらい解きなおす
→そのあと本命の参考書にとりかかりつつ、解説部分を辞書代わりに参照する、みたいな使い方がオススメです。
スパッと入門を終えてしまう、という点で先述の白チャート意外重い問題に対する答えになってます。
役に立たない、といいつつこいつの発展問題はほどほどに基礎レベルなので、間違いなく全部解けるかどうかの確認はこまめにしておきましょう。
結論は「周回できるかどうか」
ということで今回はチャート神話の実際とそれに代わる学習手段の提示だったんですが、ポイントはとにかく周回することですね。
これまた受験業界の闇なんですけど、商品を売りたいから「これがないと受からない」的な売り文句を予備校・出版社が言うだけで、別に受かるだけなら教科書でもできます。
(東大生とかがよく言ってますよね)
もちろん教科書ってのは学習指導要領を過不足なく採用している代わりに、記述の強弱が少なかったり、入試頻出を抑えてなくて効率が悪かったりするので、それに代わるよりよいテキストを私たちは求めるわけです。
私は今回黄チャートと大学への数学を最良本として提示していますが、これもまた生存者バイアスです。
結局あまたあるこういう受験情報に踊らされず、自分の完成度を突き詰めることがただひとつの正義です。
そう思って日々の自分の演習を見つめていただければと思います。
ではでは、またね~~~~